窒素について
地球温暖化の影響の一つが極端な気象現象の増加といわれ、ゲリラ豪雨や35℃を超える猛暑日など、昨今身近に感じられるところです。
温暖化ガスとして取りざたされている二酸化炭素(CO2)は、発生源がエネルギーの供給に伴う部分が多いため、経済的側面はもちろん、人類の生活基盤に深く関与していることから、削減の有効な手立てが見出せていません。
この二酸化炭素と同じかそれ以上に人類の将来に大きな影響を及ぼすのが、「窒素」です。
人をはじめこの世の動物や菌類はすべて、太陽の光エネルギーを有機物という化学エネルギーに変換してくれる植物があって生きています。
私たちが食べている野菜は植物ですし、肉や魚も元をただせば陸上の植物や水中の植物プランクトンがあってこそ存在しています。
その植物が生育に必要とする主な元素は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、燐(P)です。
炭素は大気中の二酸化炭素を取り込み、根から吸い上げた水はクロロフィルが光エネルギーを使って水素と酸素に分解して利用しますので、ほぼ無尽蔵にあるといっても良いですが、窒素や燐は土壌に含まれる水に溶け出た塩類を吸収して利用するため、その土地が肥えているか痩せているかで植物の生育に大きな差が出ます。
産業革命の時代のヨーロッパは人口の急激な増加が食糧不足を引き起こし、これが世界各地を植民地化する発端になったとされ、チリで発見された硝石はヨーロッパ諸国に食糧の増産をもたらしました。
しかし1913年にドイツのハーバーとボッシュが開発に成功したアンモニアの合成は、大気中の窒素から製造することで人工的に作成できる窒素肥料が無尽蔵に得られることになり、その後の食料増産に多大な貢献をもたらしました(二人ともノーベル賞を受賞しています)。
今や人口的に合成された窒素肥料は年間1億トンに達していて、食糧生産に必要な量の3分の2にも及び、私たちの体は合成された窒素肥料なしには維持できなくなってしまいました。
一方で、窒素肥料の合成には原料の水素ガスの供給や高温・高圧の反応に膨大なエネルギーを要し、全世界の窒素肥料の製造には原発150基分ものエネルギーが消費されています。
さらに施肥された窒素肥料のうち作物に利用されなかった窒素は、地下水の汚染、流域の富栄養化、温暖化ガスの発生などの諸問題を引き起こしています。
2050年には90億人にも達するであろうとされる人口を支える食糧生産は、温暖化に伴う気候の変動のもとで、また不安定化するエネルギー源のもとで、環境の保全を図りつつ持続可能な農業をいかに構築できるかが最大の課題になりつつあります。
分析1課 Y.T.
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