2009年11月20日
水道と環境ホルモンについて
<ビスフェノールA>
最近何かと環境問題が話題になりますが、水道で話題となる環境ホルモン物質の代表としてビスフェノールAがあります。ダイオキシンやPCBと並んでよく話題となるのがこの物質ですが、水道においては水槽構造物の内面防水材や、水道管内の防水材として使用されているエポキシ樹脂中に含まれています。
ビスフェノールAは、食品衛生法の溶出基準では2500ppb以下となっています。ポリカーボネート樹脂技術研究会によると、水温60°で30分放置しても10ppb程度しか出ないと言っています。一方でエコな方々は、環境ホルモンはppt(ppbの1/1000)単位で作用するから影響がない訳がない、といっているようです。どちらが本当なのでしょう???
ちなみに、水道水の水質基準では臭気の指標としてジェオスミンや2-MIBといった物質がありますが、この基準値は0.01ppbとかなり低い数値になっています。ところが、臭気判定では基準値の1/10(1ppt相当)でもカビ臭と評価されることがあります。つまり、人間の臭覚はppt単位を感じ取ることが出来るといえます。すごいですねぇ。
これを先ほどのビスフェノールAに当てはめてみると、水温60°30分放置で溶出する10ppbは10,000pptですから、人体に全く影響のない濃度とは言い切れないと考えられます。こうなってくると、問題はビスフェノールAがどの程度の濃度で人体に影響するかになってきます。
2004年の環境省の調査「内分泌攪乱化学物質に係る環境実態調査等」によると、『最高用量(500,000μg/㎏/日)においてのみ、一般毒性と考えられる影響が認められたものの、文献情報等により得られた人推定曝露量を考慮した比較的低用量(250ppb、53.8μg/㎏/日以下)においては、明らかな内分泌攪乱作用は認められなかった』とされています。この実験は、ラットを用いた1世代21日程度の飼育結果でしかなく、長期の実験ではどうなのか?や、推定曝露量が妥当なのかどうかに疑問を感じてしまいます。
しかし、これを受けてポリカーボネート樹脂技術研究会では「ビスフェノールAによるほ乳類に内分泌かく乱作用はない」と言い切っていますが、環境省の調査結果の表記は『予測環境中濃度は、本試験結果から推定された無影響濃度を下回っており、現実的なリスクはやや低いまたは低いと考えられた』となっています。
ちなみに、体重50㎏の人だと最高用量とは25g/日、低用量だと2.7㎎/日(最高の1/10,000)摂取するくらいの量です。生命維持に必要な水の量は3ℓ/日といわれていますから、食品衛生法の溶出基準である2.5ppmがこれに含まれていると仮定すると、摂取量は7.5㎎/日になります。
実際はそんなに含まれてないでしょうから、考えられる曝露状態は低用量よりずいぶん少ないと考えられます。さらに、ビスフェノールAは体内にはあまり蓄積されないと思うので、人間の寿命が長いことを考慮してもあまり影響がないのではないかと思えます。
協会の断定的な書き方に違和感を覚えますが、このようなことから、個人的にはビスフェノールAの影響はあまりない、もしくは生活利便性から無視せざるを得ない程度と思っています。それでも気になる人は、使用するプラスチック製品やレンジのラップ使用に気をつける程度で大丈夫なのでは?
<ビスフェノールF>
水道に話を戻しましょう。現在、配水池等の水槽構造物の内面防水はエポキシ樹脂塗装を敬遠する動きが活発な反面、鋳鉄管(水道管)は従来のモルタルライニングからエポキシ内面粉体塗装が主流になりつつあります。こういったメーカーでは、最近のエコブームとエポキシ以外の塗装メーカーの大規模なネガティブキャンペーンのせいで、ビスフェノールAに替わりビスフェノールFを使用するように変ってきています。
しかしこのビスフェノールFは、世界自然保護基金(WWF)の報告書によるとビスフェノールAの1/10程度のエストロゲン活性があることが示されています。これが正しければ、まったく影響がないとは思えないのですが、エポキシ樹脂を使っているメーカーはビスフェノールFに変えているから問題ありません、と言っています。まぁ、個人的には水道事業にとってはビスフェノールAでも問題ないと考えているので、ビスフェノールFも問題ないと考えていますが。
厚生労働省も環境ホルモンについては特に問題視していないような感じがします。というよりも、たぶん他にたくさん問題があるからでしょう。長々と書いてしまいましたが、あくまでも個人的見解ですのであしからず。
上下水道課 : 憂いのジプシー
Posted by
西日本技術の環境調査員
at
07:28
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